まとめ

相当の対価としては、以下の額を請求できます。

会社が特許発明を実施しておらず、他者に実施許諾(ライセンス)している場合

相当の対価=実施料収入×発明者の貢献度(×共同発明者間の寄与度)

会社が特許発明を実施している場合

相当の対価=超過売上×仮想実施料率×発明者の貢献度(×共同発明者間の寄与度)

ここで

実施料収入
許諾先の特許発明実施製品の売上高×実施料率
発明者の貢献度
1-会社の貢献度
共同発明者間の寄与度
発明者が複数いる場合に、請求者(発明者)が発明に対して寄与した割合
超過売上
特許発明を自社で実施している場合の売上と、特許を他者に実施許諾している場合の自社売上の差額
仮想実施料率
当該特許が実施許諾されると仮想した場合の実施料率。マーケットの動向や特許発明の技術的優位性等から算定される

シミュレーション

仮想の事例でシミュレーションをしてみたいと思います。なお、以下は極度に単純化した事例であり、現実のものとは大きく異なることにご留意下さい。

田島康陽さんは、某国立大学の工学部を卒業して、合成樹脂メーカー、オリジナル樹脂製造株式会社に勤める研究者です。彼は、部下2名と共に、遷移金属と特殊な環状化合物との錯体からなる画期的な触媒技術を発明しました。彼の研究チームは、職務発明規則に従い発明届出書を知財部に提出したところ、数年後に会社は無事に特許を取得することができました。

研究チームのそれぞれには、職務発明規則により、特許出願時2万円、特許登録時に3万円の発明者報奨金が支払われました。しかし、みんなで特許出願記念、特許取得記念と称して飲みに行ったので、このお金は瞬く間に無くなってしまいました。また、職務発明規則によると、実績補償金として会社の定める相当額が、特許取得翌年の1月1日に支払われるとのことですが、これが支払われることはありませんでした。

一方、会社はこの触媒技術を用いて、従来にない新たな樹脂「スーパーレジンP5」を製造することに成功し、これを上市しました。

スーパーレジンP5は、その耐熱性と強度の高さから、安価なオレフィン系でありながらエンジニアリングプラスチックの用途にも使用可能であるということで、爆発的なセールスを記録しました。

ところが、そんな折、田島さんのお父様が亡くなってしまいました。彼の実家は江戸時代から続く由緒正しいお煎餅の名店である「赤のれん本舗」で、跡継ぎは田島さんしかいません。彼は会社を辞め、実家の煎餅屋を継ぐことにしました。

特許を取得して以来、スーパーレジンP5の年間売上は20億円であり、売上は毎年安定しています。オリジナル樹脂製造株式会社以外には、同様の樹脂を製造販売している会社はありません。

本件の経過を時系列にすると以下の通りです。

平成12年12月1日
発明完成
平成13年1月1日
特許出願
平成13年1月31日
出願報奨金2万円支払
平成16年7月1日
特許登録
平成16年7月31日
登録報奨金3万円支払日
平成17年1月1日
特許実績報酬金支払日

田島さんは、会社に職務発明対価を支払うよう求めましたが、会社の提示したのは、金一封30万円でした。そこで彼は、自分たちの労力の結晶である本件発明について、相当の対価はいかほどなのかをまず見積もってみることにしました。

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