独占の利益とは
独占の利益を算定する方法は、会社が特許発明を自ら実施せず、他者にライセンスして収入を得ている(他者実施)場合と、会社が自ら特許発明を実施している(自己実施)場合とによって異なります。各場合の独占の利益の算定方法は、以下の式で表されます。
他者実施の場合
自己実施の場合
他者実施の場合
それでは、これらの式はどのような意味があるのでしょうか。例を挙げて説明します。
仮に、A社(自社)が1億円分、B社(競合他社)が2億円分の製品を売れるようなマーケットがあるとしましょう。特許によってこの製品の販売等をA社のみが独占できることになった場合、B社が特許製品を販売等するには、A社がB社に対して特許の実施許諾(ライセンス)をする必要があります。この場合、ライセンス料は、B社の売上(2億円)×実施料率といった決め方をされることが多いです。B社がA社に支払うライセンス料は特許によって得られる利益であり、これが独占の利益にあたります。
他者実施の場合の独占の利益は、実施料相当額で、通常は以下の式で表されます。
自己実施の場合
一方で、A社のみが製品の販売を独占した場合はどうでしょうか。A社はB社のシェアを奪取できますので、単純に考えれば3億円の製品を売れるはずです。一方で、特許が無くても売り上げることができる1億円分については、たとえA社が特許を承継しない場合(職務発明をした従業員が特許を取得した場合)でも、A社には法定通常実施権がありますので、本来A社は無償で製品の販売等をできます。したがって、特許によって増加した売上高(これを超過売上高といいます)の分についてのA社の利益、すなわち2億円のみが問題となってきます。
この2億円の売上について、A社が特許によっていくらの利益を得たかを計算するのは難しい問題ですが、通常は、仮想実施料率を乗じて利益の額を計算します。つまり、超過売上分が他社にライセンスされていた場合と同様な利益が得られているとするわけです。
自己実施の場合の独占の利益は、特許によって増加した売上高のライセンス料相当額です。
裁判例
これらの考え方は裁判例でも言及されています。
東京地判平成16年1月30日(平13(ワ)17772号)
従業者によって職務発明がされた場合,使用者は無償の通常実施権(特許法35条1項)を取得する。したがって,使用者が当該発明に関する権利を承継することによって受けるべき利益(同法35条4項)とは,当該発明を実施して得られる利益ではなく,特許権の取得により当該発明を実施する権利を独占することによって得られる利益(独占の利益)と解するのが相当である。ここでいう独占の利益とは,①使用者が当該特許発明の実施を他社に許諾している場合には,それによって得られる実施料収入がこれに該当するが,②他社に実施許諾していない場合には,特許権の効力として他社に当該特許発明の実施を禁止したことに基づいて使用者があげた利益がこれに該当するというべきである。後者(上記②)においては,例えば,使用者が当該発明を実施した製品を製造販売している場合には,他社に対する禁止の効果として,他社に実施許諾していた場合に予想される売上高と比較して,これを上回る売上高(以下「超過売上高」という。)を得ているとすれば,超過売上高に基づく収益がこれに当たるものというべきである。また,使用者が当該発明自体を実施していないとしても,他社に対して当該発明の実施を禁止した効果として,当該発明の代替技術を実施した製品の販売について使用者が市場において優位な立場を獲得しているなら,それによる超過売上高に基づく利益は,上記独占の利益に該当するものということができる。③他社に実施許諾していない場合については,このほか,仮に他社に実施許諾した場合を想定して,その場合に得られる実施料収入として,独占の利益を算定することも考えられる。
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