発明者の貢献度とは
相当の対価の算定には、その発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮することになっています。
職務発明の発明者は会社の職務として発明を行うわけですから、会社は研究資材・資金や従業者の給与を負担しており、職務発明の完成に貢献しています。よって、発明者と会社との衡平を考慮して、発明者が特許を取得した場合には、会社は通常実施権を得ますが、発明者が会社に職務発明について特許を受ける権利を譲渡した場合には、相当の対価の算定に会社の貢献度を考慮することになります。
発明者の貢献度と、使用者の貢献度との関係は以下の式で表される通りです。
したがって、相当の対価の算定は、独占の利益に発明者の貢献度の割合を乗じたものになります。
この発明者貢献度を算出する事情としては様々なものが考慮されれます。例えば、発明にあたって会社が負担した費用(研究費、資材、発明者の給与等)等はもちろんのこと、裁判例では、発明完成までの事情にとどまらず、権利取得過程、事業化の過程等の発明譲渡後の事情も参酌されています。
発明者貢献度はまさにケースバイケースで判断されるとしかいいようがありませんが、青色LED訴訟で東京高裁が「和解についての当裁判所の考え」で示した、発明者貢献度5%という値は一つの目安となるでしょう。
参考:東京高裁 和解勧告書 平成17年 1月11日
2 特許法35条の「相当の対価」について
特許法35条の「相当の対価」は,「発明により使用者等が受けるべき利益」と「発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮して算定されるものであるが,その金額は,「発明を奨励し」,「産業の発達に寄与する」との特許法1条の目的に沿ったものであるべきである。すなわち,職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価は,従業者等の発明へのインセンティブとなるのに十分なものであるべきであると同時に,企業等が厳しい経済情勢及び国際的な競争の中で,これに打ち勝ち,発展していくことを可能とするものであるべきであり,さまざまなリスクを負担する企業の共同事業者が好況時に受ける利益の額とは自ずから性質の異なるものと考えるのが相当である。
3 被控訴人のすべての職務発明の特許を受ける権利の譲渡の「相当の対価」について
<略>
これまでの裁判例等において,職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価が1億円を超えた事例は現在までに2例(①東京高裁日立製作所事件判決:相当の対価1億6516万4300円,ただし,使用者の貢献度8割,共同発明者間における原告の寄与度7割,②東京地裁味の素事件判決:相当の対価1億9935万円,ただし,使用者の貢献度95%,共同発明者間における原告の寄与度5割)があり,この2例が,数多い職務発明の中でも極めて貢献度の高い例外的なものであることは明らかである。被控訴人のすべての職務発明の特許を受ける権利の譲渡に対する上記の相当の対価は,この2例の金額をさらに大きく超えるものである。当裁判所も,被控訴人の職務発明の全体としての貢献度の大きさをこれまでに前例のない極めて例外的なものとして高く評価するものであり,同時に,それでもなお,その「相当の対価」は,特許法35条の上記の趣旨及び上記2例の裁判例に照らし,上記金額を基本として算定すべきであると判断するものである。
4 別紙の計算表について
控訴人と同業他社とがクロスライセンス契約を締結した平成14年までの期間については,①控訴人の売上金額の約2分の1を被控訴人のすべての職務発明の特許権等の禁止権及びノウハウによるものとし,被控訴人のすべての職務発明の実施料としては,平成8年までを10%とし,平成9年以降については技術の進歩が著しい分野であることを考慮して7%と算定したうえで,「発明により使用者等が受けるべき利益」を算定したものであり,②「発明がされるについて使用者等が貢献した程度」については,特許法35条の上記立法趣旨,上記2例の裁判例,及び本件が極めて高額の相当の対価になるとの事情を斟酌し,95%を相当としたものである(当然ながら上記3①の裁判例の使用者の貢献度の判断を否定するものではない。)。